地域づくりから始める生活困窮者自立支援

 3月27日、2015年度から本格実施される生活困窮者自立支援事業に備え、「神奈川県生活困窮者自立相談支援事業2013年度研修」が行われ、自治体職員、民間団体、議員など多くの参加がありました。学習会では、厚生労働省援護局地域福祉課生活困窮者自立支援室長熊木正人氏の基調講演、県のモデル事業の説明、続いてモデル事業の委託を受けている「インクルージョンネットよこはま」から支援事例報告がありました。

 熊木さんからは、新たな制度は生活困窮者の「自立と尊厳」そして「つながりの再構築」すなわち目標の一つが「地域づくり」と強調され、3つの支援「包括的・個別的な支援」「早期的・継続的な支援」「分割的・創造的な支援」が示されました。生活保護受給者は、終戦後の混乱期(1951年)を上回り過去最多の215万人を超えました。保護世帯の構成は、「高齢者世帯」「母子世帯」「疾病・障がい者世帯」に比べ「その他の世帯」が10年前の3倍になっています。さらに、福祉事務所来訪者のうち生活保護に至らない事例が高齢者も含め年間約40万人(2011年度推計)とされていますが、その他にも、非正規雇用労働者、年収200万円以下の給与所得者の増加、ニートが約60万人(2013年度)、引きこもり世帯が約26万世帯(2008年度推計)という実態が報告されました。あらためて、リスクを抱えた層が広がりつつある現実に目を向けなければなりません。

 生活困窮者自立支援事業のうち、必須事業(国庫負担3/4)とされるのが、『自立相談支援事業』と『住居確保給付金の支給』、任意事業(国庫負担2/3~1/2)が『労働準備支援事業』『一時生活支援事業』『家計相談支援事業』『学習支援事業』『就労訓練事業(中間就労)の認定』とされています。働くことを望みながら仕事に付けない、就労に結びつかなくては安定した生活が送れないといった課題があるにも関わらず、『労働準備支援事業』『就労訓練事業(中間就労)の認定』は必須事業とされていませんが、これは、事業の担い手や進め方を具体的に構想できていないことの表れではないでしょうか。自治体の取組みにおいても「必須事業ではないから」と消極的な姿勢が見られます。
 実際、モデル事業に取組む自治体は全国で68、県内では県と3つの政令市の取組みに留まっています。質疑応答では、自治体職員から、生活保護法との兼ね合いや予想される相談数、解決(支援終了)にいたるまでの期間についての質問も出され、これまで自治体としての取組めなかった分野の事業イメージを掴みかねている様子もうかがえました。

 インクルージョンネットよこははから報告された3つの事例は、どれも経済的な側面だけでなく、虐待やDV、病気、障がい、言葉のハンディ、教育問題などいくつもの要因が重なり合う困窮者の状況を伝えていました。相談員は、当事者が納得して動けるよう一つ一つ不安を解消しプランを立て、地域の中のさまざまな機関もそれぞれの役割を果たしながら連携することで包括的な支援を展開しており、縦割りの制度を繋げる役割を果たしています。

 生活困窮者自立支援法に謳われているように、生活を重層的に支えるセーフティネットの構築をめざし官民協働による地域の支援体制を構築することは重要な取組みでありその方向性も間違っていないと思います。国が言っているような「地域づくり」を絵に描いた餅にさせないためにも、一つひとつの事例にきちんと向き合い、横断的な体制で課題解決に取組む姿勢が求められます。私たちも、引き続き、ボトムアップの視点を持って、福祉現場や中間的就労の場から新たな事業のあり方を検証していきます。